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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)989号 判決

主文

原判決中上告人と被上告人佐藤英士に関する部分を破棄し、これを仙台高等裁判所に差し戻す。

上告人の被上告人金本光夫に対する上告はこれを棄却する。

上告費用中前項の部分について生じたものは上告人の負担とする。

理由

上告代理人三島保の上告理由について。

本件につき原判決の確定した事実によれば、上告人は訴外佐藤熊三に本件土地を賃貸し熊三は右地上に本件建物を所有したところ、熊三は右建物を被上告人英士に贈与し、英士は右建物を被上告人光夫に賃貸し引渡したこと、上告人は熊三及び被上告人英士に対し本件建物の所有権の移転に伴う敷地の賃借権の譲渡もしくは転貸について承諾しないことを理由として賃貸借を解除する意思表示をし右賃貸借契約は解除されたこと、被上告人英士の代理人は昭和三二年一月一九日午前一〇時の原審口頭弁論期日において借地法一〇条により本件建物の買取請求をしたので本件建物の所有権は右日時時価で上告人に移転したことが明らかである。

ところで、土地所有者からの建物収去土地明渡の請求において、建物所有者が借地法一〇条により建物の買取請求権を行使した場合、右明渡請求には建物の引渡を求める申立をも包含する趣旨と解すべきであることは所論のとおりである。

されば本件建物の買取請求により右建物の所有権が上告人に移転したものであること原判決の確定したところであるから、右日時以後において上告人は被上告人英士に対して本件建物の引渡を求めているものというべきであり、ここにいう引渡は、本件の如く建物の占有者が賃借人光夫であるため、買取前の所有者たる被上告人英士が、買取後の所有者たる上告人に対し現実の引渡をなし得ない場合においては、指図による占有移転を求める趣旨と解するのが相当である。

論旨は、被上告人英士は、原審において予備的に上告人に対し、本件建物の買取請求権を行使すると主張しただけで、建物の買取代金にもとづき留置権を行使する旨の抗弁を提出していないので無条件で上告人の引渡請求を認容すべきであると主張するが、右被上告人の主張は、建物買取代金の支払があるまでは土地の明渡を拒絶する趣旨であると解すべきこと弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、論旨中無条件の引渡を主張する部分は理由がないが、一方原審における上告人の主張は買取請求により、地上建物の所有権が上告人に移転した場合においては、買取請求の結果上告人の支払うべき金員と引換に地上建物の引渡を求める趣旨を含むものと認められ、本件弁論の全趣旨に徴すれば、被上告人英士はいまだ上告人に対し本件建物の引渡をなしていないことが明らかであり、右引渡をなさない以上、右被上告人の本件土地に対する妨害がやんだものということはできないから、原審はすべからく本件建物の時価を確定し、上告人の右建物引渡請求についての判断をなすべきであつたといわなければならない。

しかるに、これと異つた見解に出でて上告人の被上告人英士に対する控訴を棄却した原判決は、審理不尽、理由不備の違法あるものというべく、論旨はその限りにおいて理由があり、原判決は右部分について破棄を免れないが、被上告人金本光夫に対する所論は、上告適法の理由とならないから、その部分については排斥を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一)

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